高齢者では、白内障は必発で、視力が低下していきます。
そして、視力低下により、さまざまな全身への影響が生じるが分かってきました。
高齢者の大規模眼科疫学調査より、70歳以上の視力良好群(0.7以上)と視力不良群(0.7未満)に分けて認知症の発症率を比較しました。すると、視力良好群では、認知症が5.1%でしたが、視力不良群では、認知症が13.3%と有意に多く、視力が悪いほど認知症が増えていました。
視力不良群では、認知症のリスクが2.9倍高かったのです。
さらに、白内障手術既往群と非手術群の2群間で分析したところ、白内障手術で認知機能障害のリスクが2割程度防げることがわかりました。
視力低下すると、行動範囲が狭くなり、動かなくなるので足腰が弱くなり、外からの刺激が減るため認知症が進む、という悪循環が生じることが影響していると思われます。
白内障手術で、認知症のすべてが解決できるわけではありません。一方で、認知症が進行しすぎると、手術後の目薬などの管理が困難となるため、手術ができないことも少なくありません。
白内障による視力低下のため、活動範囲が狭くなりつつある方がご家族にいる場合、手術を検討してもよいかもしれません。
高齢者の疫学調査にて、白内障群では非白内障群と比較して、動脈硬化が1.6倍多いという調査結果が出ていました。
また、血圧は通常夜間に低くなりますが、白内障群では、夜間血圧低下がない人が1.8倍となっていました。
動脈硬化や夜間血圧低下の欠乏は、心筋梗塞や脳卒中などの虚血性疾患に影響を与えます。
一方、白内障手術を受け視力が良くなった人の方が、死亡率は低い、と報告されています。
視力改善によるQOLの向上だけでなく、認知機能障害の改善、生体リズムの改善、虚血性疾患などのリスク軽減などが影響している可能性があります。
視力がよいと行動範囲が広がり、日々散歩などができますが、視力が悪いと、行動範囲が狭くなり、運動量が減ることなどが原因と思われます。
たかが白内障、されど白内障。
白内障による視力低下を感じたら、一度眼科を受診することをオススメします。
睡眠などの生体リズムは、ブルーライトなどが関与しています。
そして、白内障は、ブルーライトを遮断するため、生体リズムが障害されると考えられています。
生体リズムの乱れは、睡眠だけでなく、うつ・糖尿病・高血圧・脳卒中・虚血性心疾患・癌などの多くの疾患と関連します。
白内障手術群と非手術群を比較したところ、白内障手術群で睡眠効率が良く、中途覚醒時間が短く、睡眠の質が改善しました。また、白内障手術前後で比較したところ、術後に夜間メラトニン分泌が増加していました。
これは、白内障手術で視力が改善したことで、ブルーライトが届くようになり、生体リズムが改善したことが一つの要因になった可能性があります。
一方、視力が改善したことで、日中の活動量が増えた結果かもしれません。
いずれにせよ、薄暗い部屋で24時間じっとしていたら、誰でも睡眠障害になってしまいますね。
手術で睡眠障害のすべてを改善することはできませんが、それなりに視力低下がある、日中の活動が低下しているようなら、前向きに検討してもよいもしれません。
白内障の症状の一つに、「まぶしい」があります。
これは、白内障のにごった部分に光が乱反射することが原因と言われています。これは、特に白内障の初期に多い症状です。
一方、白内障手術後、まぶしさを訴える方がいます。これは、白内障の濁りが取り除かれるため、光の入る量が増えるためです。
そのため、白内障手術により、白内障を原因とするまぶしさは改善されますが、代わりに手術によるまぶしさがでてくることがあります。
結果として、手術でまぶしさが改善する方がいる反面、手術によりまぶしさが増えたと感じる方もいます。
そのため、白内障によるまぶしさを取ることを目的として、手術することはお勧めしておりません。あくまでも手術は、白内障による視力低下を改善することを目的として、まぶしさが取れればラッキーと考えるくらいがちょうどいいと思います。
まぶしさを軽減するためには、サングラスやUVカットの眼鏡の使用で対応していきます。
黒目の大きさをご存じですか?
直径約1.5cmです。
目の中で行う眼科手術では、ミリ単位の非常に細かい作業となります。肉眼で見ることは不可能なので、手術用顕微鏡で拡大しながら手術を行う必要があります。
一般的に、カメラなどでズームすると、画質が悪くなります。しかし、画像がぼやけると、手術が困難になってしまいます。そのため、手術用顕微鏡の画質が、眼科手術では非常に重要となります。手術用顕微鏡の性能がよくなると、より精密な眼科手術をより正確で安全に行うことが可能となりました。
近年の眼科手術の進化は、手術用顕微鏡に支えられているのです。
眼科手術もいくつかの分野があり、求められる性能が異なります。そして、当院で使用している『ルメラi』は、白内障手術に特化した手術用顕微鏡となっています。
特徴は、『徹照』がとてもよいことです。
目に光を当てると、網膜で反射されます。網膜はオレンジ色なので、目の中がオレンジ色に見えます。これが『徹照』です。
徹照が一番力を発揮するのが、前嚢切開という工程です。
白内障は、嚢という透明な膜で覆われています。その前の部分である前嚢を丸く切り、その部分から器具を入れ、手術を行います。これを前嚢切開といいます。手術の工程の中でも初めの方のため、これがうまくできないと、以降の手術操作が困難になるだけでなく、後嚢破損や水晶体落下などの大きなトラブルにつながります。
嚢はサランラップみたいに無色透明です。そして、白内障は白く濁っています。そのため、特に白内障が進行している場合、前嚢はとても見えにくく、途中で見失うこともあります。
しかし、徹照が良いと、背景がオレンジ色になり、前嚢のエッジが浮き上がって見えるようになります。
それにより、前嚢切開で苦労することが格段に減りました。
日常生活では、老眼の進行で日々見えにくさを感じるものの、手術中はストレスを感じることなく手術できています。
手術用顕微鏡の進化に感謝しながら白内障手術をする今日この頃です。
白内障手術では、白く濁った水晶体を超音波で砕き、小さくしながら吸引していきます。
ここで使用する機械を
『フェイコマシーン』
と言います。
白内障手術の中で、この部分で一番トラブルが起きやすく、特に白内障が進行した症例では、難しくなります。そのため、フェイコマシーンの性能が、白内障手術に多大な影響を及ぼします。
私はいままで、ずっとアルコン社の歴代フェイコマシーンを使用していました。
私が眼科医になった20年前は、『マレニアム』や『アキュラス』でした。当時はかなり普及していたので、40歳以上の眼科医なら、一度は使用したことがあるかと思います。
これらのフェイコマシーンでは、非常に進行した白内障には歯が立ちませんでした。そのため、そのような症例では、水晶体嚢外摘出術という、目の上半分を切開し、水晶体を丸ごと取り除く手術を行っていました。
次に、いまから約15年前に、『インフィニティ』が登場しました。
こちらは、格段に性能が良くなっており、感動したのを覚えています。これにより、進行した白内障でもだいぶ手術可能となりました。
とはいえ、進行した白内障を破砕するのに非常に時間がかかるうえに、途中でしょっちゅう詰まっていました。そのたびにハンドピースに水を通したり、チップを変えたりと、手間がかかりました。
そして、ついに『センチュリオン』が登場しました。
こちらは、破砕力がさらに強力になり、進行した白内障ですら、ほとんどストレスなく対応できるようになりました。しかも、今までさんざん術者を困らせた詰まりもほとんどありません。
手術が無事にできているのは、自分のテクニックのおかげ・・・ではなく機器の進歩のおかげだと、感謝しながら手術する日々です。
当院では、感染対策のため手術後に眼帯をします。
最近では、眼帯をしない施設も増えてきています。しかし、当院では80歳以上の方も多く、不意に目を触ってしまう可能性などを危惧して、眼帯を続けております。
眼帯は、手術翌日の診察時に外します。その後、眼帯は通常は必要ありません。また、当院では保護用ゴーグルも使用しておりません。
眼帯のため、手術当日と翌日は片目となります。片目だと立体感がわかりにくいため、転倒などに注意が必要です。特に、手術しない方の目が視力不良の場合、通院や生活に支障がでるため、事前に家族の方などに付き添いをお願いして頂ければ幸いです。
よろしくお願い申し上げます。
当院では、白内障手術後は眼帯をしています。眼帯は翌朝診察し、問題なければ眼帯は外れます。そのため、手術後の帰りと、翌日の受診時は片目となります。
片目でも歩行に問題なければ、付き添いなしでも可能です。また、通院にタクシーを利用するのもよいと思います。
一方、片目だと立体感が取れず、転倒のリスクも高くなります。遠方の方、片目での歩行に不安を感じる方、転倒など心配な方、もう片方の目の視力が悪い方などは、付き添いがあった方が安心です。
白内障手術を検討されている方は、試しに片目をつぶった状態で散歩してみるなど試してみると、わかりやすいかと思います。
昔は、水晶体をまるごと取り除いておりました。水晶体は、直径10ミリ程度あります。そのため、切開創は、水晶体より少し大きい12ミリくらいが必要でした。
12ミリというと、黒目と白目の境目を上半分切るイメージです。
その後、超音波乳化吸引術という画期的な技術が登場しました。これは、水晶体を超音波で砕き、小さくした水晶体を吸い取る、というものです。この機器の登場により、切開創を大幅に小さくすることが可能となりました。
すると、次は眼内レンズが切開創の律速段階となりました。
眼内レンズは、直径6ミリ程度あります。これをそのまま入れようとすると、切開創は6.5ミリくらい必要でした。
そんな中、二つに折りたたんで入れることができるという、画期的な眼内レンズが登場しました。これにより、切開創は4ミリで可能となりました。
さらに、インジェクターが登場しました。
これにより、筒状の入れ物に眼内レンズを折りたたんだ状態で入れることが可能となりました。さらに、インジェクターが進化し、いまでは2ミリくらいの切開創で手術可能となりました。
切開創が小さくなったことで、『自己閉鎖』と言って、切開創が自然に閉鎖するようになりました。そのため、切開創を糸で縫う必要がなくなったことが、革命的でした。
これにより、手術時間が大幅に短縮しました。また、糸による手術後の痛みもなくなりました。
さらに、術後の視力回復も格段に早くなり、多くの方は手術翌日からベストに近い状態まで視力が出るようになりました。
まさにいいことばかりです。
超音波乳化吸引とインジェクターを開発した人たちに感謝しながら、手術をする今日この頃です。
手術当日は、午後1時40分までに受診していただきます。
手術の準備として、目薬とキャップの着用を行います。その後、順番で手術を行います。
手術の順番は、目の状態などから、事前にこちらで決めさせていただいております。
手術時間は、10分程度です。ただし、手術の準備と片付けがあるため、手術室での滞在時間は20分程度です。
手術後は、会計して終了となります。
安全な準備のため、手術の方は同時刻にご来院頂いております。最後の方で、3時半頃に手術終了予定です。しかし、場合により終了時刻が遅れることがあります。
予めご了承ください。