白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、代わりに眼内レンズを挿入します。
この眼内レンズに関して
『何年もつの?』『入れ替えは必要?』
などの質問をよく受けます。そこで今回は、眼内レンズの耐久性についてのお話です。
眼内レンズは、理論上50~100年もつと言われています。
一方、眼内レンズは、登場してからまだ数十年しか経っていません。そのため、実際にどれくらいもつのか、実は定かではありません。しかし、今まで世界中で数多くの白内障手術が行われていますが、ほとんどの症例では、眼内レンズの耐久性に関する問題は生じていません。
そのため、基本的には
『眼内レンズは一生もので、入れ替えは必要ない』
と考えて頂いてよろしいかと存じます。
OA2000は、光干渉式眼軸長計と言います。
白内障手術にて、眼内レンズの度数決定に活躍します。
白内障手術前検査にて行います。眼軸(目の長さ)を図り、その数値から特殊な計算式を用いて、眼内レンズの度数を導き出します。
OA2000の特徴は、精度が非常に高く、検査可能な症例が増えたことです。測定上ミリ単位の違いでも、結果に大きな誤差が生じてしまいます。OA2000は測定精度が高く、術後の誤差を最小限にしてくれます。
また、以前の機器では、白内障が進行した症例では、測定できないことがありました。しかしOA2000では、かなりの進行例でも測定できるようになりました。
白内障手術の安全性はかなり高いものの、ごくまれに感染症などの重篤な合併症が生じることがあります。その場合、視力が低下することもあります。そのため、手術は視力改善を100%保証するものではありません。
次に手術が無事終わった場合です。
手術後の視力は、目の他の部分(角膜、網膜、視神経など)の機能に影響されます。
他の部分が問題なければ、良好な視力が期待できます。しかし、白内障以外の病気(角膜混濁、緑内障、黄斑変性、網膜剥離などなど)があると、それらは白内障手術をしても治らないため、手術後の視力が改善しないこともあります。
さらに、手術後の回復のスピードもまちまちで、手術翌日には、ほぼベストの視力が出る方もいれば、1.2週間程度かけて徐々に回復する方もいます。
以上より、白内障手術後の視力は、
『手術後視力が改善することを期待しているが、最終的にはやってみないとわからない』
という、あいまいな言い方になってしまいます。
手術後の一番の懸念事項は手術後の感染症です。
頻度は非常に低いのですが、失明などの重篤な視力障害が生じる恐れがあります。
この術後感染症予防に、水が眼内に入るのを防ぐ必要があります。水が眼内に入る行為として、洗顔洗髪や水泳、運動などが挙げられます
洗顔洗髪ですが、手術後四日間程度できません。
洗顔のかわりに、汗拭きシートや絞ったタオルなどをご利用ください。
洗髪は、美容院で上向きの状態で洗うのは可能です。(理容室は下向きなのでダメです)また、水のいらないシャンプーは可能です。(薬局にて購入できます)
水泳はリスクが高いため、1ヶ月程度禁止です。
運動ですが、ウォーキング、ストレッチなどの軽い負荷なら、一週間で可能です。
一方、汗だくになるような激しい運動、負荷の大きい運動は、水泳と同じく1ヶ月程度控えた方がよいです。
一方、テレビやパソコン、スマホを見るなどの、目を使う作業は翌日から可能です。
その他に関しては、基本的に制限はないのですが、こちらの想定していないこともあるかもしれませんので、手術が決まった際に質問して頂ければと存じます。
白内障手術後は、3種類の目薬を使用します。
そのため、普段から使用している目薬を一緒に使うと、4種類以上となってしまいます。目薬の種類が多いと、本来やるべき手術後の目薬をやっていなかったり、回数が少なかったり、左右間違えて使用していたりと、間違える方が少なくありません。
そのため、当院では手術後、他の目薬は『原則中止』としております。
普段使用している目薬をやめることを心配する方もいらっしゃいます。しかし、手術後の目薬は、術後感染症の予防など、大変重要ですので、優先順位は他の目薬より圧倒的に高くなります。
例外的に、緑内障の方で、手術後に眼圧が高くなり、他の目薬を早期に再開することもあります。
手術が決定した際、個々の状況に応じて決定していきます。
よろしくお願い致します。
糖尿病は白内障を悪化させる要因の一つとされています。
実際、糖尿病がある方で、白内障の進行が早い方がいらっしゃいます。ただし、白内障は加齢性変化のため、特に60歳以上の方の場合、白内障の進行が糖尿病のためか年齢のためか、鑑別することは困難です。
白内障手術が可能かどうかを判断するために、眼科ではHbA1C(ヘモグロビンエーワンシー)という数値を主に参考にします。
外科などでは、
『A1Cが7.5%以下であれば手術は可能』
とされています。そのため、眼科でもこの基準を満たせば、白内障手術は可能と判断できます。
また、A1Cが7.5以上の場合でも、白内障手術は低侵襲のため手術は可能とも言われています。
しかし、血糖値が高いと、手術後に糖尿病網膜症の悪化、感染や炎症の増悪などのリスクが高くなります。
そのため、糖尿病が改善する見込みがあり、白内障手術を急ぐ必要がない場合は、まず糖尿病のコントロールをしっかりとしてから、手術を行うのがベストです。
一方、「白内障で視力が非常に悪く、日常生活が困難」や、「今後も糖尿病が改善する可能性が低い」などの理由から、手術を先延ばしすることが難しい場合もあります。その場合は、糖尿病のコントロールがあまりよくない状態でも、そのまま手術を行うこともあります。
ただし、手術のリスクが高いことを理解していただく必要があります。
いずれにせよ、日頃から、しっかりと糖尿病をコントロールしておくことが大切です。
白内障は、通常ゆっくりと進行していきます。通常は、ある程度進行したところで眼科へ受診して手術をするのですが、手術せずに放置していると、最終的に『成熟白内障』になって、ほとんど見えなくなることもあります。
『成熟白内障』とは、白内障が進行しすぎて、水晶体が真っ白もしくはまっ茶色に濁った白内障を言います。矯正視力は0.01以下と、重篤な視力障害を来します。
通常の白内障の手術は、比較的短時間で安全になっています。
しかし、成熟白内障の場合、白内障が硬くて、視認性が悪くなるため、手術が困難です。そのため、手術時間が長くなり、合併症のリスクが高くなります。
さらに、成熟白内障では、目の奥である眼底が見えないため、網膜や視神経などに病気があるかどうか、手術前にはわかりません。そのため、術後に視力がどれくらい改善されるのか、手術前に予想することができませn。
以上、まとめると、成熟白内障では、
①手術のリスクが高い
②術後視力が予想できない
という問題があります。
そのため、成熟白内障まで進行する前に、白内障手術をすることをオススメしています。
白内障は、徐々に進行する病気のため、定期的に眼科通院をしていれば、成熟白内障になるまで放置されることはまずありません。
特に60歳過ぎて、見えにくい、かすむ、などの視力低下を感じたら、一度眼科へ受診してみてください。
睡眠などの生体リズムは、ブルーライトなどが関与しています。
そして、白内障は、ブルーライトを遮断するため、生体リズムが障害されると考えられています。
生体リズムの乱れは、睡眠だけでなく、うつ・糖尿病・高血圧・脳卒中・虚血性心疾患・癌などの多くの疾患と関連します。
白内障手術群と非手術群を比較したところ、白内障手術群で睡眠効率が良く、中途覚醒時間が短く、睡眠の質が改善しました。また、白内障手術前後で比較したところ、術後に夜間メラトニン分泌が増加していました。
これは、白内障手術で視力が改善したことで、ブルーライトが届くようになり、生体リズムが改善したことが一つの要因になっていると思われます。
薄暗い部屋で24時間じっとしていたら、誰でも睡眠障害になってしまいますね。
手術で睡眠障害のすべてを改善することはできませんが、視力低下があれば、前向きに検討してもよいもしれません。
高齢者の疫学調査にて、白内障群では動脈硬化が1.6倍多いという調査結果が出ていました。
また、血圧は通常夜間に低くなりますが、白内障群では、夜間血圧低下がない人が1.8倍となっていました。
動脈硬化や夜間血圧低下の欠乏は、心筋梗塞や脳卒中などの虚血性疾患に影響を与えます。
一方、白内障手術を受け視力が良くなった人の方が、死亡率は低い、と報告されています。
視力改善によるQOLの向上だけでなく、認知機能障害の改善、生体リズムの改善、虚血性疾患などのリスク軽減などが影響している可能性があります。
視力がよいと行動範囲が広がり、日々散歩などができますが、視力が悪いと、行動範囲が狭くなり、運動量が減ることなどが原因と思われます。
たかが白内障、されど白内障。
白内障による視力低下を感じたら、一度眼科を受診することをオススメします。
高齢者では、白内障により視力が低下してしまいます。
さらに視力低下をすると、さまざまな全身への影響が生じるが分かってきました。
高齢者の大規模眼科疫学調査より、70歳以上の視力良好群(0.7以上)と視力不良群(0.7未満)に分けて認知症の発症率を比較しました。すると、視力良好群では、認知症が5.1%でしたが、視力不良群では、認知症が13.3%と有意に多く、視力が悪いほど認知症が増えていました。
視力不良群では、認知症のリスクが2.9倍高かったのです。
さらに、白内障手術既往群と非手術群の2群間で分析したところ、白内障手術で認知機能障害のリスクが2割程度防げることがわかりました。
視力低下すると、行動範囲が狭くなり、動かなくなるので足腰が弱くなり、外からの刺激が減るため認知症が進む、という悪循環が生じることが影響していると思われます。
白内障手術で、認知症のすべてが解決できるわけではありません。一方で、認知症が進行しすぎると、手術後の目薬などの管理が困難となるため、手術ができないことも少なくありません。
白内障による視力低下のため、活動範囲が狭くなりつつある方がご家族にいる場合、手術を検討してもよいかもしれません。
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