開業が正式に決まり、次は開業活動の中心となるチーム作りをすることになりました。
まずは、物件の担当業者でもあるI社を一番の中心に据えました。しかし、I社では書類手続きなど、できない業務がありました。そこで、A氏事件で活躍した業者S社に加わっていただきました。さらに、機械卸業者として、私と個人的にも10年以上前から知っているR社に機器関係や内装のチェックなどをお願いすることにしました。開業に向け、チームヤツカが発足しました。
さあ、これから開業という大海原へ出航・・・と思った矢先、早速事件が勃発します。
続く
I社に連絡をしたところ、とんとん拍子に事が進み、再び契約前までコマを進めました。
そして、あの鬼門のリーガルチェック。前回と同じ方にお願いしました。前回のようにビッシリと指摘があったらどう対処しようか、と心配しながら、結果を待ちました。
ついに、リーガルチェックの結果が届きました。
ドキドキしながらメールを開くと・・・
そこには3つ、箇条書きがあるだけでした。その内容も、簡単なものでした。
結局、前回と今回との差の原因は、今も闇の中です。素人の私には、双方の契約書とも同じように見えます。前回のものが悪かったのか、チェックする人のテンションの差がそうさせたのか、よくわかりません。
「うまくいくときは、びっくりするくらいすんなりいくもんだよ。」
前回、契約直前で破綻したときにY先生に頂いたアドバイスを、しみじみと感じました。
2017年1月、ついに契約を締結しました。
そして、開業日を2017年6月1日に決定しました。
(テナント開業の場合、契約日から半年後開業がセオリーとなっています)
帰り道、達成感に浸っていました・・・
この後、本当の地獄が始まることになるとは知らずに・・・
物件探し編 終了
次回より地獄の谷塚編が始まります。
「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」
「安西先生!!!」(スラムダンクより)
そして気が付くと、ある1枚の物件の資料が机の上にありました。それは、いままで何度も見ては、素通りしていた物件でした。
その物件の場所は「谷塚駅」と書いてありました。
さらに、その担当会社は、前回丁寧な返信をくれたI社でした。
当時、申し訳ない話ですが、谷塚駅を知りませんでした。それだけでなく、東武スカイツリーラインの存在すら知りませんでした。
そこで、スカイツリーラインを眺めてみました。すると、春日部駅を通っていることがわかりました。実は、私は小学校まで春日部市に住んでいました。
そして、スカイツリーラインをさらに北上したところに、東武動物公園駅を発見しました。子供のころに何度か行ったことがあるはずなので、記憶はないのですが、東武伊勢崎線時代に乗っていたと思われます。
少しだけ親近感が湧いてきました。
肝心の谷塚情報ですが、周りの人たちに聞いて回りましたが、草加せんべい?という単語しか入ってきませんでした。
とりあえず、前回丁寧な返信をしてくれたI社に連絡を取ることにしました。
続く
1件目 計画が無期延期になりました。
2件目 計画がすでに白紙になりました。
3件目 計画が1年延期になりました。
4件目 内科が入らないと、眼科だけでは計画が進みません。
計画物件あるある
「計画は永遠に計画のまま・・・。」
計画物件は、実行されることなく計画倒れで終わるケースが少なからずあります。計画を実行へ移すには、莫大な資金とエネルギーが必要で、当然のことかもしれません。
よくある要因の1つとして、4件目のように
「内科が入らない」
が挙げられます。3件目も、確定している内科の先生の都合で延期となっているとのことでした。
計画物件の多くは薬局系会社が主導しています。薬局は医療モールに入るクリニックから処方される薬でビジネスを行います。薬局からすると、内科は儲けが多く、一方、眼科は目薬がメインのため、儲けがあまり出ないそうです。そこで、薬局は、内科が入ることが医療モール着工の条件とすることも多いです。そして、内科の先生が見つけられない場合、そのまま計画がストップしてしまうことになります。
3件目を1年待つことも考えましたが、会ったこともない内科の先生の気まぐれに人生を預ける気にはなれませんでした。
結局、計画物件もあれだけ候補地があったにも関わらず、一つとして当たりがありませんでした。
「やっぱり自分には開業は無理かも」
半ば開業をあきらめ、開業資料を捨てようと整理していた時、天から声が聞こえてきました。
続く
既存の物件でよいを見つけることができなかった私は、次に計画物件に目を付けました。
計画物件とは、言葉の通り、これから建てることが計画されている、もしくは建設中の物件を言います。候補地の医療モールや医療ビルの計画物件を探していきました。
計画物件は、前回見つけた物件より場所がよいものが多くありました。さらに、これから作るため、広さをある程度こちらの希望に応じて調整できます。その結果、こちらの条件に近い間取りが可能です。
そして、候補地が4つでてきました。
さらに、新規開業情報について確認しましたが、聞いた範囲ではないようでした。
4つも候補地があれば、さすがにどれか1つくらい当たりがあるだろう、そう楽観視していました。
しかしこの後、計画物件あるあるが直撃することになります。
続く
「それらの駅周辺で、新規開業予定があります。」
色々な人に連絡をし、現状を説明したところ、すでにその駅周辺で新規開業の予定があるという情報をいただきました。
まさかの新規開業かぶり、しかもなんと3件とも・・・。
当時は半信半疑でしたが、2020年現在、実際に3駅とも新規開業しております。
さらに恐ろしいことに、うち2駅では、わずか1年のうちに、新規開業が2件重なっていました。こうなると、ビジネス用語をかっこよく使うと、ブルーオーシャンからレッドオーシャン、日本語でベタに言うと天国から地獄です。
開業する人たちは同じところを狙っている、という事実を思い知らされました。また、開業ラッシュとは聞いていましたが、改めて肌で感じました。
そんなわけで、3つの物件の担当者に、それぞれお断りの連絡をしました。
すると、3人中2人は、それまで「先生、先生」とあれだけ下手に出ていたのに、お断りの連絡をした途端、返信すらしません。人間、こういう時に本性が出るものです。
そんな中、業者I社だけは丁寧に返信してくれました。
そして、このI社こそ、今後の開業のカギを握るところとなります。
続く
ネットで物件探しを始めたところ、探している駅で、いくつかの物件を発見しました。
そこで、担当会社へ連絡していきました。しかし、多くの物件で、すでに契約が決まっているから、他の物件はどうでしょうと言われました。よい物件をわざと残しているのか、ずぼらでネットの更新が遅いのか。どちらにせよ、ネットの情報はタイムリーでない、という問題が浮き彫りになりました。
それでも、3つの物件が残りました。
それらはすべて医療モール物件で、それぞれ違う薬局系会社が担当していました。そして、開業の際、担当の薬局系会社がそのままコンサルタントもやってくれるとのことでした。一人で行動していた私には、ありがたいお話でした。
どこも一長一短で、ピンとくる1件はなかったのですが、とりあえず開業はできそうかな、と感じていました。
ここで、改めて開業活動を再開した報告を兼ねて、前回お世話になった業者や先輩などに連絡し、今回の物件について相談しました。すると、驚きの事実が判明するのでした。
続く
作成した診療圏調査データベースの中から、患者数の多かった上位10駅を選び、物件探しを始めることにしました。
「物件は足で探せ」
ということで、まずはそれぞれの駅の不動産屋を回ることにしました。駅前にある不動産屋にかたっぱしから行きました。希望にそう物件がないか確認してもらい、なければ名刺を渡し、物件が出たら連絡してもらうようにお願いしました。しかし、不動産屋はほとんど住居用賃貸物件しか扱っておらず、30件程度回って、物件を1つ紹介されたのみでした。
歩き回って疲れるうえ、不動産屋に冷たくあしらわれ、体力的にもメンタル的にも非常にきつい作業でした。そのうえ、効率がこの上なく悪い。
ある日、不動産屋めぐりをする予定にしていましたが、精神的にどうしても不動産屋へ入ることができず、駅周辺でブラブラしながらポケモンを捕まえて1日が終わってしまいました。
さすがにこれの方法は無理と断念し、物件探しをパソコンで行うことに決めました。
この決定により、運命的に谷塚駅に出会うことになるのですが、それはもう少し先の話です。
続く
前回のあらすじ
先輩に診療圏調査の方法を教えてもらった私。その特殊能力を使って、その後の運命を大きく左右するプロジェクトを思いつきます、それはいったい・・・?
「各駅の診療圏調査のデータベース作成」
それぞれの駅前に開業したと仮定して、駅ごとに予測患者数を計算し、データをまとめることにしました。
通勤できる範囲を決め、その各沿線につき、範囲内ののすべての駅に対し行いました。例えば、総武線の市川駅から千葉駅までのすべての駅、など。
多少面倒ですが、一人で作業できる単純作業のため、前回の件で人間不信になっていた私にはまさにピッタリでした。
そして、1か月かけて、東京、埼玉、千葉の通勤可能な範囲のデータベースが完成しました。これをみると、どの駅が穴場で、どこが激戦区か、一目瞭然です。それまで、モヤモヤしていたキリが晴れるような感覚で、我ながらすごいものを作った、と興奮しました。この最強ウェポンを引っ提げて、改めて開業活動をスタートさせることになります。
ただし、当時、このデータベースに肝心の「谷塚駅」は入っていませんでした。
続く
今回はお勉強のお話です。
興味がない方は、今回の分は読み飛ばしてもストーリー的には問題ないようにするので、ご安心ください。
では始めます。
診療圏調査は、1日の患者数を推定する調査です。そう聞くと、なんだか小難しそうですが、式にすると、たった3つの数字から計算できます。
1日患者数=受療率×年齢別人口÷競合クリニック数
受療率とは、年齢別(0-14歳、15-64歳、65歳以上)に1日あたり10万人中何人がその科に受診するか、という数値です。これは、厚生労働省が公表しているデータです。それに、年齢別人口(0-14歳、15-64歳、65歳以上の各人口)をかけます。
この数字を競合するクリニック数で割ると、あら不思議、一日の予測患者数がでてきます。
受療率と競合クリニック数は決まった数なので、コントロールできません。一方、年齢別人口は、診療圏範囲、つまり何キロ以内の患者が受診するかの範囲の設定の仕方で、大きく変わってきます。例えば、同じ場所で診療圏範囲を1キロと2キロで比べた場合、距離が倍だと面積は4倍、すると人口も4倍になり、患者数も4倍になります。
1キロと2キロ、歩くと遠いですが、地図上で見ると、誤差範囲です。
そして、A氏とS社の結果の違いも、この診療圏範囲の設定が主な原因であることがわかりました。
通常、この診療圏調査は、候補物件がいくつか出てきた時点で業者にお願いします。しかし、時間がかかるため、あまり多くの物件で調査をお願いすることができません。そのため、数件の候補物件に対して診療圏調査をし、その中で一番結果のよい物件を選ぶことになります。しかし、全部はずれである可能性も否定できません。また、大まかなエリアの選別にも使えません。
そこで、診療圏調査のやり方を教わり、自分で調査できるようにしました。
この特殊能力を手に入れた私は、その後の開業活動を大きく動かすことになる一大プロジェクトに取り組むことになります。
続く