今回は、白内障手術と糖尿病につき、説明していきます。
まず、糖尿病は白内障を悪化要因とされています。
実際、糖尿病がある方で、白内障の進行が早い方がいらっしゃいます。ただし、白内障は加齢性変化のため、60歳以上の方の場合、白内障の進行が糖尿病のためか年齢のためか、鑑別することは困難です。
白内障手術が可能かどうかを判断するために、眼科ではHbA1C(ヘモグロビンエーワンシー)という数値を主に参考にします。
外科などでは、
『A1Cが7.5%以下であれば手術は可能』
とされています。そのため、この基準を満たせば、白内障手術は可能と判断できます
また、A1Cが7.5以上の場合でも、白内障手術は低侵襲のため手術は可能とも言われおります。
しかし、血糖値が高いと、手術後に糖尿病網膜症の悪化、感染や炎症の増悪などのリスクが高くなります。
そのため、もし今後糖尿病が改善する見込みがあり、白内障手術を急ぐ必要がない場合は、まず糖尿病のコントロールをしっかりとしてから、手術を行うのがベストです。
一方、「白内障で視力が非常に悪く、日常生活が困難」や、「今後も糖尿病が改善する可能性が低い」などの理由から、手術を先延ばしすることが難しい場合もあります。その場合は、糖尿病のコントロールがあまりよくない状態でも、そのまま手術を行うこともあります。
ただし、手術のリスクが高いことを理解していただく必要があります。
糖尿病による糖尿病網膜症目で視力低下が生じた場合、視力の改善は困難になってしまうため、日頃から、しっかりと糖尿病のコントロールをしておきましょう。
今回は、白内障手術における超音波乳化吸引術についてです。
12ミリある水晶体を、そのまま2ミリ強の小さな切開創から取り除くことはできません。そのため、水晶体を小さくする必要があります。そこで、超音波で水晶体を砕き、小さくなった水晶体を吸引していきます。
これが超音波乳化吸引術です。
分かりやすく例えると、大きな岩をドリルで砕き、小さくしたかけらをホースで吸い取る、というイメージです。
そして、もし岩がものすごく硬いと、ドリルではびくともしなくなり、砕くのが困難になりそう、と想像できるかと思います。
白内障は進行するほど、水晶体は硬くなっていきます。そして、末期の成熟白内障ともなると、岩のように固くなることもあります。
20年くらい前までの機器では、成熟白内障の硬さに歯が立たないことが多かったです。そのため、成熟白内障に限っては、12ミリの切開創で水晶体ごと取り除くような手術をしていました。
現在の機器は、破壊力が格段にアップし、ほぼすべての成熟白内障でも対応可能となりました。そのため、ここ10年は、切開創の大きい手術はまったく必要なくなりました。
それに伴い、手術時間も大幅に短縮され、術者のストレスも軽減されました。
開発に携わった方々、ありがとうございます。
「白内障手術は何歳までできますか?」
「白内障手術は早い方がよいですか?」
という質問がよくあります。
まず結論ですが、白内障手術に年齢制限はないです。
当院で白内障手術した最高年齢は94歳です。また、院長自身は、以前勤務していた病院で99歳の方を手術した経験があります。共に、術後問題ありませんでした。
100歳以上の方の手術は経験がないのですが、100歳以上で、手術希望がある方や適応になる方は滅多にないかと思います。
ただし、全身状態が悪く、
・自力で歩行できないため通院が困難
・横になってじっとしていられない
・座位が保てず、検査ができない
などがあると手術は困難です。
そのため、白内障手術は、年齢より全身状態のほうが重要です。
次に、白内障手術は早い方がいいか?という質問ですが、こちらは、正確に答えるのがなかなか難しいです。
白内障が進行すると手術が難しくなることがあります。また、全身状態が悪くなると、上記のために手術ができなくなることもあります。
一方、手術結果は、手術した時期に関わらずほとんど変わりないです。
そのため、白内障手術は目の状況や年齢を含めた全身状態により、やるべき時期が変わってきます。
当院では、手術を強要するようなことはありませんので(最後の一押しが欲しい方には物足りないかもしれませんが)白内障手術の時期につき、迷うことがあれば、お気軽にご相談ください。
「白内障手術は痛くないですか?」
「麻酔はどうやってするのですか?」
などのご質問をよく頂きます。そのため、今回は白内障手術時の麻酔についてのお話です。
当院では、「めぐすりの麻酔」で行っております。
めぐすりのメリットは、麻酔薬の体内への移行量が微量なため、全身への副作用がきわめて少ないことです。また、時間も手間もかかりません。
痛みに関しては、ほとんどの方は痛くなかったと言われます。しかし、たまに痛かったと言われる方もいます。ただし、当院で痛みにより手術を中断した方は今のところいません。
一方、手術はベッド上でじっとしている必要があります。しかし、認知症や体の震えなどにより、じっとしていられない場合、局所麻酔での手術は困難です。そのような方には全身麻酔が必要となります。当院では全身麻酔はできないため、大学病院などの施設へご紹介します。
しかし、全身麻酔は入院が必要な上、全身麻酔自体のリスクを伴います。そのため、通常は局所麻酔で手術することを前提としています。
ちなみに、局所麻酔はめぐすりのほかに注射もあります。
白内障以外のほとんど手術は注射で行います。
注射はめぐすりと比べると、より長くより痛みが取れます。
一方、注射のために白目を切るなど時間がかかり(1分程度ですが)、注射自体がちょっと痛い、というデメリットがあります。
院長が医者になった20年前は、白内障手術も全例注射をしていました。その後、技術や機器が進歩し、手術時間が短縮されたことで、注射は必要なくなっていきました。そして、10年ほど前より、めぐすりのみで手術を行うようになりました。
白内障、緑内障ともに、加齢により増える疾患です。そのため、白内障手術を希望される方で、緑内障の治療もされていることがあります。
ほとんどの緑内障のタイプでは、通常の白内障手術と同じように手術できます。
ただし、閉塞隅角緑内障などの一部の緑内障のタイプでは、手術が難しいことがあります。また、手術後に眼圧が高くなり、眼圧のコントロールに苦慮することもあります。
一方、手術後の視力ですが、予測が難しいことがあります。
白内障手術をしても、緑内障が治るわけではないため、緑内障による視力視野障害は残ります。そのため、緑内障の状態により、手術後の視力が変わってきます。
緑内障が軽度の場合、
緑内障が軽度の場合は、手術後比較的良好な視力が期待できます。
一方、緑内障が重度の場合、手術をしても視力が改善しないこともあります。
ただし、白内障と緑内障が両方ある場合、どちらがどれくらい視力に影響しているかを正確に判断するのは困難です。
そのため、緑内障のある方の白内障手術において、
『手術後、どれくらい見えるようになりますか?』
という質問に対しては、
『いまよりよくなることを期待しているが、どれくらいよくなるかはやってみないとわからない』
というお答えとなります。
今回は手術のタイミングについて、説明していきます。
基本的な手術のタイミングは、
「ご本人が不便を感じて、手術をしたくなった時」
となります。
ただ、この説明だけだとわかりにくいので、具体的な視力の数値で説明していきます。
免許更新には矯正視力0.7、新聞などの文字を読むには矯正視力0.5程度が必要です。
それを参考にすると、車の運転をされる方は0.7、日常生活を営むには0.5を下回ると手術適応と言えます。
一方、そこまで視力が悪くない場合でも、生活に支障がでていれば、手術適応にはなります。しかし、あまり視力が良いうちに手術をすると、手術は問題なく、術後視力も良好にも関わらず
「思ったよりよくない」
「もっとよく見えるようになると思っていたのに」
などの不満が出ることが少なくありません。
白内障は基本的にゆっくりと進行します。そして、手遅れになって手術ができない、ということはほとんどありません。そのため、すでに白内障が相当進行している場合や、進行が急激な場合を除き、医学的に手術の緊急性は高くありません。
以上より、当院では、白内障手術はご本人のご希望があった時にやる、を原則としており、手術を強要することはありませんので、ご安心下さい。
白内障手術をした後は、翌日の外来まで眼帯をする必要があります。しかし、反対目が見えない場合、良い方や目を眼帯してしまうため、生活に支障が生じます。
そこで、当院では、透明眼帯を使用しています。今のところ、手術後からよく見えると、概ね好評です。
ただし、手術直後の見え方は個人差があるため、家族などのサポート体制が不可欠です。そのため、一人暮らしの方など、生活に不安がある場合は、入院して手術を受けたほうが安心です。当院では日帰り手術のみで、入院ができないため、入院ができる病院へご紹介することも可能です。
大切な目ですので、一度ご相談ください。
今回は、手術時の付き添いについて、説明します。
当院では、白内障手術後は眼帯をしています。眼帯は翌朝診察し、問題なければ眼帯は外れます。そのため、手術後の帰りと、翌日の受診時は片目となります。
片目だと立体感が取れず、見えにくいなど不便を感じることがあります。
片目でも歩行に問題なければ、付き添いなしでも可能です。また、お金はかかりますが、タクシーを利用する方法もあります。
一方、片目は歩行に不安を感じる方、転倒など心配な方は、付き添いがあった方が安心です。
白内障手術を検討されている方は、試しに片目をつぶった状態で歩行などをしてみると、わかりやすいかと思います。
緑内障の治療について、今わかっていることは
『眼圧を下げると、進行が遅くなる』
この1点のみです。
これは、緑内障には、眼圧の高いタイプだけでなく、眼圧が正常である正常眼圧緑内障にも当てはまります。
同じ眼圧でも緑内障になる人、ならない人がいるように、眼圧以外の様々な要素が関与していることが予測されますが、現時点で確定的に証明されているものはありません。
そのため、『治療は眼圧を下げる』ことのみとなります。
しかし、治療をしても、進行を遅くするのみで、改善や進行を完全に止めることは、今の医学ではできません。そのため、早期発見・早期治療が重要となります。
眼圧を下げる方法は、目薬か手術となります。
目薬はいくつか種類があるため、目の状況などから、使用する目薬を決めていきます。効果が不十分の場合は、目薬の変更や追加を検討していきます。
『緑内障は手術できますか?』
という質問をよくいただきます。
手術も、目薬同様に眼圧を下げるだけで、視力や視野が改善することはありません。しかも、手術は合併症が生じる可能性があるため、目薬でどうしてもコントロールできない場合にしかたなく行う、という位置づけです。
『生活に注意点はありますか?緑内障や眼圧にいいこと、悪いことはありますか?』
これもよくいただく質問ですが、答えは、『現時点では一切わかっていない』となります。
そのため、目薬をしっかり継続することが重要です。
緑内障では、視野が障害されます。しかし、視野の中心部は比較的末期まで温存されるため、視力は変わらないことが多いです。そのため、緑内障は、自覚症状が出にくいです。
視野障害は、信号や看板を見落とす、人や壁などにぶつかりやすい、本の行を読み飛ばす、など『気が付かずに見落とす』という症状が出ることが多いです。
自覚症状が出にくいことのデメリットは、発見が遅れることです。そのため、健診が重要となります。
一方、緑内障があっても、初期の段階ではあまり生活に支障が出ません。そのため、早期発見・早期治療を行い、初期段階にとどめることで、緑内障があっても、ほとんど困ることなく生活を送ることが可能となります。