白内障の症状の一つに、「まぶしい」があります。
これは、白内障のにごった部分に光が乱反射することが原因と言われています。これは、特に白内障の初期に多い症状です。
一方、白内障手術後、まぶしさを訴える方がいます。これは、白内障によるにごりを取り除き、光が入る量が増えるためです。
そのため、白内障手術により、白内障を原因とするまぶしさは改善されますが、代わりに手術によるまぶしさがでてくることがあります。
結果として、手術でまぶしさが改善する方がいる反面、手術によりまぶしさが悪化したと感じる方もいます。
そのため、白内障によるまぶしさを取ることを目的として、手術することはお勧めしておりません。あくまでも手術は、白内障による視力低下を改善することを目的として、まぶしさが取れればラッキーと考えるくらいがちょうどいいと思います。
まぶしさを軽減するためには、サングラスやUVカットの眼鏡の使用で対応していきます。
黒目の大きさをご存じですか?
直径約1.5cmです。
目の中にアプローチする眼科手術では、この中で操作をする、とても細かい作業となります。肉眼で見ることは不可能なので、手術用顕微鏡で拡大しながら手術を行う必要があります。
一般的に、カメラなどでズームすると、画質が悪くなります。しかし、画像がぼやけると、手術が困難になってしまいます。そのため、手術用顕微鏡の画質が、眼科手術では非常に重要となります。手術用顕微鏡の性能がよくなると、より精密な眼科手術をより正確で安全に行うことが可能となりました。
近年の眼科手術の進化は、手術用顕微鏡に支えられているのです。
眼科手術もいくつかの分野があり、求められる性能が異なります。そして、当院で使用している『ルメラi』は、白内障手術に特化した手術用顕微鏡となっています。
特徴は、『徹照』がとてもよいことです。
目に光を当てると、網膜で反射されます。網膜はオレンジ色なので、目の中がオレンジ色に見えます。これが徹照です。
徹照が一番力を発揮するのが、前嚢切開という工程です。
白内障は、嚢という透明な膜で覆われています。その前の部分である前嚢を丸く切り、その部分から器具を入れ、手術を行います。これを前嚢切開といいます。手術の工程の中でも初めの方のため、これがうまくできないと、以降の手術操作が困難になるだけでなく、後嚢破損や水晶体落下などの大きなトラブルにつながります。
嚢はサランラップみたいに無色透明です。そして、白内障は白く濁っています。そのため、特に白内障が進行している場合、前嚢はとても見えにくく、途中で見失うこともあります。
しかし、徹照が良いと、背景がオレンジ色になり、前嚢のエッジが浮き上がって見えるようになります。
それにより、前嚢切開で苦労することが格段に減りました。もちろん、その他の操作も立体的に良く見えるため、ストレスを感じることなく手術することが可能です。
今回は、白内障手術における切開創の大きさについて、説明していきます。
ずーっと昔は、水晶体をまるごと取り除いておりました。水晶体は、直径10ミリ程度あります。そのため、切開創は、水晶体より少し大きい12ミリくらいが必要でした。
12ミリというと、黒目と白目の境目を上半分くらい切るようなイメージです。
その後、超音波乳化吸引術という画期的な技術が登場しました。これは、水晶体を超音波で砕き、小さくした水晶体を吸い取る、というものです。この機器の登場により、切開創を大幅に小さくすることが可能となりました。
すると、次は眼内レンズが切開創の律速段階となりました。
眼内レンズは、直径6ミリ程度あります。これをそのまま入れようとすると、切開創は6.5ミリくらい必要でした。
そんな中、二つに折りたたんで入れることができるという、画期的な眼内レンズが登場しました。これにより、切開創は4ミリで可能となりました。
さらに、インジェクターが登場しました。
これにより、筒状の入れ物に眼内レンズを折りたたんだ状態で入れることが可能となりました。さらに、インジェクターが進化しており、いまでは2ミリくらいの切開創で手術可能となりました。
2ミリがいかに小さいかを体感するために、定規で2ミリを確認してください。
切開創が小さくなったことで、『自己閉鎖』と言って、切開創が自然に閉鎖するようになりました。そのため、切開創を糸で縫う必要がなくなったことが、革命的でした。
これにより、手術時間が大幅に短縮しました。また、糸による手術後の痛みもなくなりました。
さらに、術後の視力回復も格段に早くなり、多くの方は手術翌日からベストに近い状態まで視力が出るようになりました。
まさにいいことばかりです。
超音波乳化吸引とインジェクターを開発した人たちに感謝しながら、手術をする今日この頃です。
今回は、白内障手術と糖尿病につき、説明していきます。
まず、糖尿病は白内障を悪化要因とされています。
実際、糖尿病がある方で、白内障の進行が早い方がいらっしゃいます。ただし、白内障は加齢性変化のため、60歳以上の方の場合、白内障の進行が糖尿病のためか年齢のためか、鑑別することは困難です。
白内障手術が可能かどうかを判断するために、眼科ではHbA1C(ヘモグロビンエーワンシー)という数値を主に参考にします。
外科などでは、
『A1Cが7.5%以下であれば手術は可能』
とされています。そのため、この基準を満たせば、白内障手術は可能と判断できます
また、A1Cが7.5以上の場合でも、白内障手術は低侵襲のため手術は可能とも言われおります。
しかし、血糖値が高いと、手術後に糖尿病網膜症の悪化、感染や炎症の増悪などのリスクが高くなります。
そのため、もし今後糖尿病が改善する見込みがあり、白内障手術を急ぐ必要がない場合は、まず糖尿病のコントロールをしっかりとしてから、手術を行うのがベストです。
一方、「白内障で視力が非常に悪く、日常生活が困難」や、「今後も糖尿病が改善する可能性が低い」などの理由から、手術を先延ばしすることが難しい場合もあります。その場合は、糖尿病のコントロールがあまりよくない状態でも、そのまま手術を行うこともあります。
ただし、手術のリスクが高いことを理解していただく必要があります。
糖尿病による糖尿病網膜症目で視力低下が生じた場合、視力の改善は困難になってしまうため、日頃から、しっかりと糖尿病のコントロールをしておきましょう。
今回は、白内障手術における超音波乳化吸引術についてです。
12ミリある水晶体を、そのまま2ミリ強の小さな切開創から取り除くことはできません。そのため、水晶体を小さくする必要があります。そこで、超音波で水晶体を砕き、小さくなった水晶体を吸引していきます。
これが超音波乳化吸引術です。
分かりやすく例えると、大きな岩をドリルで砕き、小さくしたかけらをホースで吸い取る、というイメージです。
そして、もし岩がものすごく硬いと、ドリルではびくともしなくなり、砕くのが困難になりそう、と想像できるかと思います。
白内障は進行するほど、水晶体は硬くなっていきます。そして、末期の成熟白内障ともなると、岩のように固くなることもあります。
20年くらい前までの機器では、成熟白内障の硬さに歯が立たないことが多かったです。そのため、成熟白内障に限っては、12ミリの切開創で水晶体ごと取り除くような手術をしていました。
現在の機器は、破壊力が格段にアップし、ほぼすべての成熟白内障でも対応可能となりました。そのため、ここ10年は、切開創の大きい手術はまったく必要なくなりました。
それに伴い、手術時間も大幅に短縮され、術者のストレスも軽減されました。
開発に携わった方々、ありがとうございます。
「白内障手術は何歳までできますか?」
「白内障手術は早い方がよいですか?」
という質問がよくあります。
まず結論ですが、白内障手術に年齢制限はないです。
当院で白内障手術した最高年齢は94歳です。また、院長自身は、以前勤務していた病院で99歳の方を手術した経験があります。共に、術後問題ありませんでした。
100歳以上の方の手術は経験がないのですが、100歳以上で、手術希望がある方や適応になる方は滅多にないかと思います。
ただし、全身状態が悪く、
・自力で歩行できないため通院が困難
・横になってじっとしていられない
・座位が保てず、検査ができない
などがあると手術は困難です。
そのため、白内障手術は、年齢より全身状態のほうが重要です。
次に、白内障手術は早い方がいいか?という質問ですが、こちらは、正確に答えるのがなかなか難しいです。
白内障が進行すると手術が難しくなることがあります。また、全身状態が悪くなると、上記のために手術ができなくなることもあります。
一方、手術結果は、手術した時期に関わらずほとんど変わりないです。
そのため、白内障手術は目の状況や年齢を含めた全身状態により、やるべき時期が変わってきます。
当院では、手術を強要するようなことはありませんので(最後の一押しが欲しい方には物足りないかもしれませんが)白内障手術の時期につき、迷うことがあれば、お気軽にご相談ください。
「白内障手術は痛くないですか?」
「麻酔はどうやってするのですか?」
などのご質問をよく頂きます。そのため、今回は白内障手術時の麻酔についてのお話です。
当院では、「めぐすりの麻酔」で行っております。
めぐすりのメリットは、麻酔薬の体内への移行量が微量なため、全身への副作用がきわめて少ないことです。また、時間も手間もかかりません。
痛みに関しては、ほとんどの方は痛くなかったと言われます。しかし、たまに痛かったと言われる方もいます。ただし、当院で痛みにより手術を中断した方は今のところいません。
一方、手術はベッド上でじっとしている必要があります。しかし、認知症や体の震えなどにより、じっとしていられない場合、局所麻酔での手術は困難です。そのような方には全身麻酔が必要となります。当院では全身麻酔はできないため、大学病院などの施設へご紹介します。
しかし、全身麻酔は入院が必要な上、全身麻酔自体のリスクを伴います。そのため、通常は局所麻酔で手術することを前提としています。
ちなみに、局所麻酔はめぐすりのほかに注射もあります。
白内障以外のほとんど手術は注射で行います。
注射はめぐすりと比べると、より長くより痛みが取れます。
一方、注射のために白目を切るなど時間がかかり(1分程度ですが)、注射自体がちょっと痛い、というデメリットがあります。
院長が医者になった20年前は、白内障手術も全例注射をしていました。その後、技術や機器が進歩し、手術時間が短縮されたことで、注射は必要なくなっていきました。そして、10年ほど前より、めぐすりのみで手術を行うようになりました。
白内障、緑内障ともに、加齢により増える疾患です。そのため、白内障手術を希望される方で、緑内障の治療もされていることがあります。
ほとんどの緑内障のタイプでは、通常の白内障手術と同じように手術できます。
ただし、閉塞隅角緑内障などの一部の緑内障のタイプでは、手術が難しいことがあります。また、手術後に眼圧が高くなり、眼圧のコントロールに苦慮することもあります。
一方、手術後の視力ですが、予測が難しいことがあります。
白内障手術をしても、緑内障が治るわけではないため、緑内障による視力視野障害は残ります。そのため、緑内障の状態により、手術後の視力が変わってきます。
緑内障が軽度の場合、
緑内障が軽度の場合は、手術後比較的良好な視力が期待できます。
一方、緑内障が重度の場合、手術をしても視力が改善しないこともあります。
ただし、白内障と緑内障が両方ある場合、どちらがどれくらい視力に影響しているかを正確に判断するのは困難です。
そのため、緑内障のある方の白内障手術において、
『手術後、どれくらい見えるようになりますか?』
という質問に対しては、
『いまよりよくなることを期待しているが、どれくらいよくなるかはやってみないとわからない』
というお答えとなります。
今回は手術のタイミングについて、説明していきます。
基本的な手術のタイミングは、
「ご本人が不便を感じて、手術をしたくなった時」
となります。
ただ、この説明だけだとわかりにくいので、具体的な視力の数値で説明していきます。
免許更新には矯正視力0.7、新聞などの文字を読むには矯正視力0.5程度が必要です。
それを参考にすると、車の運転をされる方は0.7、日常生活を営むには0.5を下回ると手術適応と言えます。
一方、そこまで視力が悪くない場合でも、生活に支障がでていれば、手術適応にはなります。しかし、あまり視力が良いうちに手術をすると、手術は問題なく、術後視力も良好にも関わらず
「思ったよりよくない」
「もっとよく見えるようになると思っていたのに」
などの不満が出ることが少なくありません。
白内障は基本的にゆっくりと進行します。そして、手遅れになって手術ができない、ということはほとんどありません。そのため、すでに白内障が相当進行している場合や、進行が急激な場合を除き、医学的に手術の緊急性は高くありません。
以上より、当院では、白内障手術はご本人のご希望があった時にやる、を原則としており、手術を強要することはありませんので、ご安心下さい。
白内障手術をした後は、翌日の外来まで眼帯をする必要があります。しかし、反対目が見えない場合、良い方や目を眼帯してしまうため、生活に支障が生じます。
そこで、当院では、透明眼帯を使用しています。今のところ、手術後からよく見えると、概ね好評です。
ただし、手術直後の見え方は個人差があるため、家族などのサポート体制が不可欠です。そのため、一人暮らしの方など、生活に不安がある場合は、入院して手術を受けたほうが安心です。当院では日帰り手術のみで、入院ができないため、入院ができる病院へご紹介することも可能です。
大切な目ですので、一度ご相談ください。