2016年9月、再び開業活動を始めることにしました。
周りに協力者もなく、またゼロからの出発です。
再開にあたり、まずは前回の物件が本当に良い物件であったか、について考えることから始めました。これを検討しておかないと、今後別の場所で開業し、なにかうまくいかないことがでてきたときに、
「あの物件で開業しておけばよかった」
と一生後悔しそうな気がしたからです。
物件の良し悪しを予測する手段がないか、考えました。その結果、“診療圏調査”が唯一の方法であるという結論にたどり着きました。
前回の物件での問題のひとつは、A氏の診療圏調査の結果では患者数1日100人だったのに対し、S社の結果が1日30人と、大幅に数が違っていたことでした。このあたりに、なにか重大なポイントが隠れていると感じ、診療圏調査の勉強から始めることにしました。
続く
開業活動を始めてからは、通常の勤務の後に誰かと夜までミーティング、帰宅してメールの山をチェックし返信、という超多忙だった日々でした。しかし、今回の開業話が流れた後、「先生、先生」と言って近寄ってきた多くの大人たちがいなくなりました。
人間不信に陥り、心に穴が開いたまま、目の前の業務を淡々とこなし、開業に関することは一切やりませんでした。
気が付けば、季節は猛暑だった夏から秋へ変わっていきました。涼しい風が秋の香りを運んでくる頃、私のなかで、このような気持ちが沸き上がってきました。
「安西先生、俺、開業が・・・したいです・・・」(スラムダンクより)
続く
運命の日 後編
そして、A氏へ再度電話し、第一声
私「この開業、やめさせていただきます。」
A氏「いまさら何を言っているんですか。みんな先生のためにがんばっているんですよ。もう、私が謝っただけではすまされませんよ。」
私「全責任は私が持ちますので、もう結構です。」
こうして、A氏との開業活動は幕を閉じました。
その後、今回の件に関与したすべての方々に謝罪の連絡をしました。
その中で判明したのですが、A氏は私の知らないところで、契約日をはじめとした様々な段取りを行っていました。また、そのやり方も巧妙で、例えば内装業者に
「何日、物件の調査お願いします。その日は、先生も同席します。」
とアポイントを取っていました。このような言い方をすることで、先方は私がこの件につき了承していると、当然考えます。ところが、私はその日程を聞いておらず、さらに、その日は外来があり、そもそも行けない日程なのです。
A氏は、オーナーや業者たちに、同様のやり口で、私が指示しているように見せかけて、勝ってに様々な段取りを組んでいたようでした。
皆さんのお話をまとめると、A氏は、このような嘘を積み重ねて緻密なスケジュールを組んでいました。しかし、A氏としては予定外にS社の話やリーガルチェックなどが入り、スケジュールが崩れました。すると、嘘を積み重ねたために、私や業者に事情を説明し修正ができなくなり破綻した、と推測しています。
信頼していた人間に裏切られ、人間不信になった私は、ステージ上でマイクを置いて、こう言いました。
「私、普通の勤務医に戻ります。」(百恵ちゃん風)
続く
運命の日 中編
リーガルチェックの結果は、難解でボリュームが多すぎて、こちらでかみ砕いてオーナーと協議することは困難と判断しました。そこで、今回の結果をそのままオーナーに提出したうえで話し合いたい、とA氏に提案しました。すると、予想外の反応が返ってきました。
「そんなことしたら、この開業の話、潰れますよ」
A氏は、リーガルチェックはその内容を理解し、それを踏まえて不利益にならないよう気を付けましょう、というような趣旨の話をしていました。しかし、今回ばかりは私は主張を曲げず、A氏は結果をそのまま送ることに、しぶしぶながら同意しました。
そして、いったん電話を終了しました。
もはや一人では抱えきれなくなった私は、先輩Y先生に相談の電話をしました。そして、あの伝説のアドバイスをいただきました。
「うまくいくときは、びっくりするくらいすんなりいくもんだよ。今回は縁がなかったんじゃない」
その言葉を聞いて、ついに決意が固まりました。
運命の日 後編へ続く
運命の日 前編
2016年8月7日
この奇跡の物語は、1通のメールから始まります。
「リーガルチェック終わりました。」
ここで、ついにリーガルチェックの登場です。
早速メールを開け、内容を確認したところ、目を疑いました。
そこには、契約書の中で、貸主に極端に有利な部分や、定義があいまいな部分などの指摘が、数十項目にわたり、びっしりと羅列されていました。これを読むだけでかなりの時間を要しましたし、読んでも内容をほとんど理解できませんでした。
人生初のリーガルチェックだったので、指摘が適切なのかどうか、また、量が多いのか、普通なのか、私には判断できませんでした。しかし、これを読んでいると、悪徳業者が消費者をだます例のヤツ、という印象を受けました。
同様のメールは、すでにA氏にも送られており、すでに読んでいるものと思われます。
意を決してA氏に電話しました。
運命の日 中編へ続く
8月4日は終わらない・・・。
すぐにA氏に電話しました。すると、
「その日程って、先生が言ってませんでしたっけ?」
人間、相手にあまりにも堂々とされると、こちらが間違っていると思ってしまうものです。
そのときは、私が誤解を招くような言い方をしてしまったのかな、と考えてしまいました。さらにA氏は、
「8月8日に内装業者の現地視察をお願いしているので、8月6日に契約していただかないと間に合いませんよ。」
と畳みかけてきました。ちなみに、内装業者の話も初耳でした。
次々と新しい情報が出てきて、もはやパニックを通り越して思考停止な私。気が付けば、内装業者の現地視察をずらせるのか、に論点移っていました。結局、
「さすがに明後日の契約は無理なので、8月10日に契約日を延期して、お願いします。」
という約束をしてしまいました。
8月10日に契約する約束をしたものの、すっきりと納得できたわけではありません。かといって、約束した以上、それを破ることもできません。だれにも相談できないまま、眠れない夜を過ごしていました。
運命の日まであと3日。
(あれ、8/4の3日後は8/10ではないぞ?)
2016年8月4日
事件は、不動産屋からの1本の電話から始まりました。
いままで、不動産屋とはA氏がやり取りしており、A氏を介さず私に直接連絡が来ることはありませんでした。なんとなく嫌な予感を抱きながら、電話に出ました。すると、唐突にこう言ってきました。
「8月6日の契約日ですが、何時にしますか?」
このときはまだリーガルチェック待ちだったため、契約すると確定していませんでした。まして、契約日を指定するなどありえません。あまりにもわけのわからない内容で、パニックになりながら、必死にそのことを説明すると、不動産屋は不機嫌な口調で
「A氏から、私が8月6日の日程で契約するから、書類を用意しろと言われたので、それに合わせて我々は無理して徹夜で契約書を作ったんですよ。」
というではありませんか。当然、私は契約書を作れとは、一言も言っていません。
当然、すぐにA氏に連絡しました・・・。
続く
S社とのミーティングを終えた私は、指摘された懸念事項などにつき話し合うために、A氏に電話しました。すると、いつもの穏やかな口調から一転、かなりきつい口調で
「開業するときは、反対勢力が出るものです。気にしてたら開業なんてできないですよ。」
と一喝されました。
S社とは、開業活動に協力してもらうパートナーという位置づけだったため、反対勢力という言い方には、違和感を覚えました。
この時初めて、A氏への信頼が揺らぎ、この開業への不信感が生まれました。
一方、このまま進まないと、一生開業できない、という焦りもありました。まさに引くも地獄、進むも地獄です。
結局、この開業をやめる決断もできず、モヤモヤを抱えたまま開業活動を進めることになりました。そんな中、会計事務所の勧めで、物件の契約書のリーガルチェック(契約書を弁護士にチェックしてもらう)をし、問題なければ契約する、という方向で話がまとまっていました。
2016年8月1日の時点では、あとはリーガルチェックを待つだけ、のはずでした。
しかし、この後とんでもない大事件が起こりました。
運命の日まであと6日
その日、S社と何度目かの面談がありました。待ち合わせ場所に行くと、S社の方たちは神妙な面持ちで、なんだかいつもと様子が違います。そして、開口一番
「先生、ここでの開業はやめたほうがいいと伝えに来ました。いくつかの懸念事項があります。また、当社の診療圏調査の結果では、競合との兼ね合いで1日30人程度と、決してよくありません。」
私にとって、寝耳に水でした。そして、Sの話は、いま振り返ると、まさに核心を得た話でした。
しかし、開業一直線と浮かれていた私は、この言葉に耳を貸しませんでした。
このとき、話を真摯に受け止め、冷静な判断をしていれば、このあとに起こる悲劇が起こることはなかったのですが・・・
続く
物件オーナーや不動産屋との交渉はA氏にすべてお任せしていました。
開業時期を来年6月で考えているとオーナーに伝えてもらったところ
「そこまで待てないので、来年1月までに開業してください。」
と言われたとのことでした。希望の日程ではなかったので、この物件を半分あきらめていました。すると、A氏より意外な提案がありました。
「花粉の時期の2、3月の前に開業したほうが、患者数の立ち上がりがよいので、1月はむしろよいですよ」
A氏の提案を受け、1月にこの物件で開業する方向で、話を進めることにしました。
その後、矢継ぎ早にA氏から会計事務所、内装業者、広告代理店を紹介されました。
たくさんの大人たちに囲まれ、開業が一気に現実味を帯びてきました。
しかし、そんな中、とある業者からとんでもない情報が入るのでした。
続く